さまざまな治療・健康効果が期待されているCBD(カンナビジオール)が、今世界中の人たちに注目され、日常の生活に取り入れられています。
CBDは、大麻草から抽出される安全性の高い成分です。しかし大麻草と聞くと、違法性がある成分なのではないかと心配になる人も多いのではないでしょうか。
大麻草から抽出され、大麻取締法で規制されている成分はTHC(テトラヒドロカンナビノール)と呼ばれています。THCには精神活性作用であるハイになる作用や依存性があります。
CBDもTHCも同じ大麻草から抽出されますが、化学的な構造も性質も全く違う別物です。
日本ではTHCを所持していると大麻取締法違反となり逮捕されます。しかし、海外の国や州の中にはTHCを合法で購入・使用できるところもありますし、THCを医療大麻として病気の治療に使っているところもあります。THCもCBDのようにさまざまな治療効果があるといわれています。
しかしその一方で、THCには依存性や陶酔性、健康へのリスクなどCBDにはないデメリットがたくさんあるとして懸念されています。
今回はTHCに期待されている効果やリスク、日本における法規制、CBDとの違いなどを解説していきます。
THCに期待される4つの効果
THCに期待されている効果を4つ紹介します。
1.不安を軽減する効果
THCには不安を軽減する効果が期待できます。
2017年の海外の研究では、低用量のTHCを摂取すると、人前で発表するときの緊張が和らいだことが報告されました。この研究結果では、THCを含むカンナビノイドが不安症を患っている人たちの不安解消に役立つ可能性があると結論付けています。
また、海外でTHCを含む大麻を吸入している人の多くは、THCがもたらすとされているリラックス効果や、精神的なストレスを軽減する効果を期待して吸入しているという事実もあります。
しかし、2017年のワシントン大学の研究では、低用量のTHCが不安を軽減したのに対して、高用量では不安が増大したという結果になりました。一方、CBDは、試験されたすべての用量において不安を軽減しました。
THCは、不安を軽減する効果はあるものの、用量によっては不安を増大してしまう可能性があります。
2.痛みを和らげる効果
THCには痛みを和らげる効果があるとされています。
2022年の海外の研究では、THCには陶酔作用、吐き気を止める作用、炎症を緩和する作用があり、それらの作用が神経性の痛みや慢性の痛みの緩和につながる可能性があることが報告されています。
また、THCには多発性硬化症※のチクチク感、ヒリヒリ感、しびれなどの痛みや、硬直した筋肉を和らげる作用があると結論付けられています。
(※多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症疾患。脳や脊髄、視神経など身体のあちこちにさまざまな症状が起こる。)
他の多くの臨床研究でも、THCを含む大麻を口腔粘膜スプレーや経口投与することで、多発性硬化症患者に最も多い痛みや、筋肉の過緊張などの症状が軽減されるという結果が報告されています。
3.吐き気・嘔吐を和らげる作用
THCには、吐き気・嘔吐を和らげる作用があることが期待されています。
2017年の海外の研究では、抗がん剤などの化学療法で起こる吐き気や嘔吐の解消にTHCを使ったところ、THCは従来の吐き気止めと比較して同じレベル、もしくはより良いレベルで吐き気・嘔吐を改善する可能性があることが示唆されました。
海外では化学療法による吐き気・嘔吐を和らげるためにTHCを含む医療大麻が実際に使用されています。
4.抗がん作用
THCにはガンを抑える作用があることが期待されています。
2019年の海外の研究では、がん細胞とTHCを含むカンナビノイドを同じ実験皿に入れて観察したところ、がん細胞の増殖を遅らせたり、がん細胞自体を壊したりする作用があるという結果が出ました。
また、生体内のがん細胞の増殖も、生体内から取り出したがん細胞の増殖もカンナビノイドが効果的に抑えたという結果も出ています。
ただしTHCの抗がん効果は、全てのがんにあらわれるわけではなく、がんの種類や薬剤の用量によっては効果がない場合もあります。
THCは精神作用と依存性があり日本では違法
THCにはさまざまな治療効果があるといわれていますが、デメリットも多いです。
THCは精神活性作用があり、摂取するとハイになったり、脳や身体の健康に悪影響が出たり、依存したりする可能性があります。そのため、日本ではTHCは大麻取締法で厳しく規制されています。
海外のデータでは、マリファナを吸っている人のうち約10%の人が依存症になっているとされています。
CBDは日本では合法です。しかし、CBD製品の中からTHCが検出された場合その商品は大麻取締法違反になります。
海外のTHCが合法の国や州では、THCが微量に入っているCBD製品が、オンラインショップや実店舗で普通に販売されています。詳しく調べないままCBD商品を安易に個人輸入したり、怪しい店舗で購入したりしないようにしましょう。また見ず知らずの人からもらったCBD製品を口にする際も注意が必要です。
THC入りの商品を日本で所持すると逮捕されてしまうということにもなりかねませんし、食べてしまうと健康被害が出る可能性があります。CBD製品を購入したり、もらったりする際は必ずTHCフリーの商品であることを自分で確認してください。
THCで起こり得る8つのリスク
THCは、いくつかの治療効果があるといわれています。またTHCが合法の国や州では、THCがもたらすとされている多幸感やリラックス感を目的にTHCを摂取している人もいます。
しかし、THCを摂取する健康リスクも非常に多いです。THCの具外的なリスクについて解説します。
1.不安や精神病の悪化
THCを摂取すると不安や精神病を悪化させる可能性があります。
アメリカの国立薬物乱用研究所のデータによると、THCを摂取した後にリラックス感や多幸感は感じず、代わりに不安や恐怖、パニック症状などの精神症状が起こる人がいるということが報告されています。
THCによる精神症状が起こるのは、THCを過剰摂取した人、THCへの感受性が高い人、THC摂取の経験が浅い人に多いです。特に、THCを過剰摂取すると、幻覚や妄想、自分のことが分からなくなるなど急性的な精神病のようになるといわれています。
THCによって起こり得る精神症状の例は次のようなものです。
・学校・仕事などの成績低下
・やる気がなくなる
・衛生状態が保てない
・空想と現実の区別ができない
・不安の増加
・言っていることが混乱する
・論理的に考えられない
・妄想に浸る
・不眠
2.胎児への悪影響や死産
THCを摂取することで、胎児へ悪影響を及ぼしたり、死産になったりする危険性があります。
アメリカの産婦人科医会のデータでは、THCは発育中の胎児に悪影響を及ぼす可能性があることが報告されています。
アメリカの国立薬物乱用研究所の報告では、THCを摂取している妊婦は、摂取していない人と比べて死産のリスクが2.3倍も高い可能性があることが示されました。
3.心臓発作の増加
THCを摂取することで、心臓発作を引き起こす可能性が高まるといわれています。
アメリカの国立薬物乱用研究所の報告では、THCは血圧や心拍数を増加することで、身体が血液中の酸素を十分に運べなくなる可能性があることが示唆されました。
THC摂取後の最初の1時間では、THCの摂取で身体が酸素不足になった結果、心臓発作を引き起こす危険性が、通常の約5倍にもなるという結果が出ています。
2017年の海外の研究では、過去10年間で大麻のTHC含有量が10倍に増加したことを指摘しています。一般の人がTHCを高用量で摂取できてしまうことが原因で、心臓発作や不整脈、心停止、心筋症、脳卒中などを引き起こす危険性が増加していると報告しています。
4.運動能力の低下と事故リスクの増加
THCを摂取すると運動能力の低下や、事故リスクの増加を招く危険性があります。
アメリカの国立薬物乱用研究所の報告では、THCの摂取が判断力や運動能力の低下、瞬発力の損失などを引き起こすことがあることが分かりました。
2021年の海外の研究では、THCを含む大麻を使用後に交通事故などの事故が増加すると結論付けています。
5.肺疾患の増加
THCを摂取すると肺疾患を引き起こす可能性が増加するといわれています。
アメリカの国立薬物乱用研究所の報告では、大麻の煙が肺や喉を過剰に刺激することで、喘息、気管支炎、肺気腫などの慢性肺疾患にかかるリスクが高まると示唆しています。
また、2021年の研究では、大麻を摂取する時に電子タバコを長期間使うと、肺にダメージを与える可能性が高くなると報告しています。
アメリカでは、THCを電子タバコで摂取した結果肺にダメージを受けた症例が1,000件以上も報告されています。その中には電子タバコの使用後に死亡した例もあります。このような結果を受けてアメリカの医薬品局は、THCの電子タバコの使用を中止するように警告しています。
6.子どもの発達に悪影響
THCを子供が摂取すると、発達に悪影響を及ぼす可能性があります。
アメリカの国立薬物乱用研究所のTHCの長期摂取に関する報告によると、青少年がTHCを定期的に摂取すると、長期に渡って認知や発達に悪影響を与える可能性があることが指摘されました。
また、アメリカの国立薬物乱用研究所の学校や社会生活の影響に関する報告では、THCを含む大麻を青少年が摂取することで注意力や記憶力を損なう可能性があり、結果的に学業や仕事の成績が低下する可能性があると示唆しました。
7. カンナビノイド過剰症候群を引き起こす可能性
THCの摂取は、カンナビノイド過剰症候群(CHS)を引き起こす危険性があります。
CHSとは、大麻摂取後に腹痛や吐き気、嘔吐を一定間隔で繰り返す症状のことをいいます。
2019年の海外の研究では、THCを含む大麻を吸入した被験者の18.4%が体調不良を訴えて、緊急治療室に行ったことが分かりました。また、食用の大麻を摂取した被験者では、8.4%がCHSの症状で緊急治療室に行ったことが分かりました。
8.他のドラッグやアルコールなどへの依存性を高める
THCを使用すると、他のドラッグやアルコールなどへの依存を高める原因となる可能性があります。
アメリカの国立薬物乱用研究所の報告では、THCを含む大麻を摂取した人は、摂取してない人に比べると3年以内にアルコール中毒になる可能性が高いという結果が出ています。
この結果は、THCの摂取がアルコールだけでなく他のドラッグへの依存リスクも高める可能性があることを示しています。
CBDとTHCの5つの違いとは?
CBDとTHCは同じ大麻草から抽出された成分ですが、全く違うものです。CBDとTHCの違いを詳しく見ていきましょう。
1.抽出される大麻草の部位が違う
CBDとTHCは抽出される大麻草の部位が違います。
CBDは大麻草の茎や種子から抽出されるのに対して、THCは大麻草の花穂や葉、根っこから抽出されます。
大麻草という一つの植物でもその部位によって含まれている成分が違うのです。
2.精神活性作用・依存性の有無
CBDとTHCは精神活性作用・依存性の有無という点で異なります。
CBDは、精神活性作用が一切なく安全性が高いことがすでに証明されている成分です。それに対してTHCは精神活性作用があり、摂取するとハイになったり、陶酔したりします。また依存性があるため、THCの効果が切れるとまた摂取したくなってしまうということも起こり得ます。
3.副作用が違う
CBDにもTHCにも副作用がありますが、報告されている副作用の種類や、症状の重さが違います。
CBDに報告されている副作用は、口の渇きや下痢、体重・食欲の変化など軽度な副作用が主です。
症状が軽度なため、たとえば口の渇きの副作用は、CBDを摂取する時に水を補給することで予防することができるなど、副作用の対策がとれることも多いです。副作用が続いてしまう場合は、CBDの摂取をやめれば症状が改善に向かうでしょう。
THCに報告されている副作用は、精神症状の悪化や心臓発作、肺疾患の増加など、症状の重い副作用が目立ちます。精神症状などの一時的な副作用も中にはありますが、心臓疾患や肺疾患のように一度かかってしまうと生死に関わったり、治癒するのに時間がかかったりする副作用も多いです。
4.効果の違い
CBDもTHCも痛みの軽減効果や、リラックス効果など共通する作用があります。しかし、効果の違いも見られます。
たとえば、ドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群などのてんかんの治療にはCBDが適しているといわれています。そのため、海外で使われているドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群の治療薬であるエピディオレックスはCBDが主成分になっています。
また、CBDとTHCに共通するリラックス作用などにおいても、THCのほうがリラックス効果が強い傾向があるなど、作用の強さなどにも違いが見られます。
5.作用の仕組みが違う
CBDとTHCは作用のメカニズムが違うといわれています。
THCは、エンドカンナビノイドシステム(ECS)※のCB1やCB2受容体に直接結合することでECSを活性化し、作用するとされています。
※ECSとは、体内の環境を一定に保とうと調節する恒常機能のこと。細菌やストレス、不安、炎症、痛みなどにさらされても、回復し生きていけるのはECSが働いているからだといわれている
CBDはCB1、CB2受容体には直接結合しないと考えられています。
体内で作られるエンドカンナビノイドの分解をCBDが防ぐことで間接的にECSを活性化しているのではないかという説や、CB1、CB2以外のまだ発見されていない受容体に結合してECSを活性化しているのではないかという説などがあります。
CBDはTHCの中毒症状や精神活性作用、副作用を緩和する?
THCには中毒性や精神活性作用があります。
今まで行われた多くの研究では、低用量のCBDはTHCの中毒性を高め、高用量のCBDはTHCの中毒症状や精神活性症状を緩和するという結果が報告されています。
ただし、2022年の海外の研究では、CBDを摂取したからといってTHCの副作用のリスクは、軽減されない可能性があることが示唆されています。CBD/THCの比率が高い大麻を摂取するとTHCの副作用を軽減できるように見えるのは、CBDの用量が高いからではなく、THCの比率が低くTHCの影響が少ないために副作用が必然的に軽くなっている可能性があると指摘しています。
高用量のCBDがTHCの副作用の悪影響を防ぐことができるかどうかを判断するためには今後のさらなる研究が必要です。
まとめ
THCには、不安を軽減する効果、痛みを和らげる効果、吐き気・嘔吐を止める効果、がん抑制効果などが期待されています。
THCは精神作用や依存性などがあり、日本では大麻取締法によって規制される違法な成分です。
THCを摂取すると、健康リスクが非常に高くなります。
健康へのリスクとして、不安や精神病の悪化、胎児への悪影響や死産、心臓発作の増加、運動能力の低下と事故リスクの増加、肺疾患の増加、子どもの発達に与える悪影響、カンナビノイド過剰症候群を引き起こす可能性、他のドラッグやアルコールなどへの依存性を高める危険性などが考えられます。
CBDとTHCは全く違うものです。CBDとTHCは、抽出される大麻草の部位、精神活性作用・依存性の有無、副作用、効果、作用のメカニズムなどに違いがあります。
高用量のCBDはTHCの中毒症状や精神活性作用を緩和するといわれています。ただし、CBDを摂取したからといってTHCの副作用のリスクは軽減されない可能性があることも示唆されています。高用量のCBDがTHCの副作用の悪影響を防ぐことができるかどうかを判断するためには今後のさらなる研究が必要です。
THCの効果についてよくある質問
Q.CBDとTHCは何が違うのでしょうか?
CBDとTHCは、抽出される大麻草の部位(CBDは大麻草の茎や種子から、THCは大麻草の花穂や葉、根っこから抽出される)、精神活性作用・依存性の有無(CBDは精神活性作用なし、THCはあり)、副作用(CBDは比較的症状の軽い副作用、THCは症状が重い副作用が多い)、効果の種類や作用の強さ、作用のメカニズムなどに違いがあります。
Q.THCは違法ですか?
THCは精神活性作用があり、摂取するとハイになったり、脳や身体の健康に悪影響が出たり、依存したりする可能性があります。そのため、日本ではTHCは大麻取締法で厳しく規制されています。
Q.THCは精神作用がありますか?
THCは精神活性作用があります。摂取するとハイになったり、陶酔したりする可能性があります。